映画「バーレスク」について

ミュージカル映画の名作は世の中に沢山あります。「雨に唄えば」「王様と私」「ウエスト・サイド物語」「メリー・ポピンズ」など公開から何十年もたった今でも歌い継がれている名曲も多いですね。最近では「ムーラン・ルージュ」「シカゴ」「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」などのミュージカル映画が大ヒットしています。どの作品も予測不能なストーリーと心躍る音楽が魅力的で、私は大好きです。そして、2010年、また新たなミュージカル映画の傑作が生まれました。それが映画「バーレスク」です。アメリカの歌姫クリスティーナ・アギレラが映画初主演を務めたこの作品は、ゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞にノミネートされています。興行収入は約89万ドルと余り奮わなかったのですが、ミュージカルファンの度肝を抜くアギレラの迫力の歌声は、一見の価値ありです。

ストーリー(ネタバレ)

歌手になるという夢を持つアリは、アイオワの田舎でウェイトレスとして働きながら、ロサンゼルスへ行くための資金を貯めていました。営業の終わったレストランで、一人歌の練習をするアリ。その声は力強く、そして希望に満ち溢れていました。しかしレストランのオーナーはここ何か月か、給料を払ってくれていません。ウェイトレスを辞めることを決意したアリは、お店のレジスターから未払いの給料を“払って”もらい、ロサンゼルス行きのチケットを購入します。そこに骨を埋める覚悟の彼女は、もちろん片道だけのチケットを購入しました。夢の大都会へとやってきたアリ。一人暮らしの部屋を見つけ、とにかく仕事を見つけなければと奔走するアリでしたが、田舎者の彼女を雇ってくれるところはありません。ロスの街を仕事を求めて彷徨う中、アリは「バーレスク・ラウンジ」というショーバーを見つけます。そのネオンの明かりに惹きつけられるように、店内へと入って行くアリ。中では華やかな舞台で美女たちが舞い踊る豪華絢爛なステージが繰り広げられていたのです。このステージに感動したアリは、自分もここで働きたいとオーナーのテスに直談判しに行きます。しかしお店の看板歌手でもあるテスは、アリに一瞥もくれることなく追い返してしまいます。諦めきれないアリは、ウェイターのジャックに無理矢理頼み込んでウェイトレスとして働き始めたのでした。働きながらも自分の歌を聴いてほしい、ダンスを見てほしいとテスに懇願するアリ。しかしテスは一行に彼女の願いを聞いてくれません。しかも最悪なことに、アリの自宅が泥棒に入られ、トイレのタンクに隠してあったなけなしの現金まで全て奪われてしまったのです。家賃も払えなくなったアリは、ジャックに頼み込み、彼の部屋へ置いてもらうことにしました。何とか危機を乗り越えたアリの元に、ある日チャンスが巡ってきます。バックダンサーの1人が妊娠してしまい、代役が必要になったのです。オーディションに無理矢理参加し、ダンスを披露するアリ。テスはその熱意に負け、アリを代役として舞台に上げることを了承してくれたのでした。

バックダンサーとして

こうしてバックダンサーとしてステージに立つことを許されたアリ。ジャックも彼女の成功を喜んでくれます。彼女が疲れて家で寝ていると、その耳元にピアノの優しい音色が聞こえてきました。ジャックが演奏していたのでした。彼は実は作曲家志望で、自分の曲で賞を取ったこともあったのだそうです。ですが、その後はこれといった曲が創れず、スランプに陥っていたのでした。一方アリはと言えば、確実にその実力を発揮し、舞台での仕事を見事にこなしてテスの信頼も得られるようになってきました。しかし、それを面白く思わない人物もおり、同僚のダンサーたちには馴染めずにいました。みんなが今晩のディナーを相談している中、一人ぼっちになったアリを慰めてくれたのはテスでした。化粧がうまくできないというアリの筆を取り、テスは自らアリの唇に紅を塗るのでした。ダンサーたちの母親のようなテスにも悩みがありました。それは他でもないバーレスク・ラウンジの事です。バーレスク・ラウンジは、多額の借金を抱えており、存続の危機に瀕していたのです。テスは銀行にも融資を断られ、あとはお店を手放すしか方法はないと言われていたのでした。

一躍スターの仲間入り

バーレスクのトップダンサーはニッキという女の子でした。彼女は才能はあるのですが、お酒におぼれたり遅刻したりと、テスを困らせる悩みの種でもありました。ニッキは田舎者のアリを毛嫌いしており、彼女の差し金でアリはダンサーたちに馴染めていなかったのです。テスは、ニッキの素行の悪さに、見せしめとしてトップを降ろし、その代りにアリがソロで踊ることになったのです。アリは大喜び。しかし起こったニッキは、アリが踊る曲の直前で音響のコードを抜くという嫌がらせを行ったのです。慌てて幕を降ろそうとするスタッフたち。しかしアリはそのステージへと出ていき、アカペラで見事な歌声を披露したのでした。マイクに頼らなかったにも関わらず、アリの歌声はホール中に響き渡りました。観客は総立ちになって拍手を浴びせ、スタッフたちも彼女の歌声に驚きを隠せませんでした。ステージを見たテスは、アリをメインに据え、生歌でショーをすることを決めます。彼女の歌声は評判を呼び、新聞にも取り上げられ、バーレスクは連日連夜大盛況となります。スターの仲間入りを果たしたアリ。ジャックとも次第に打ち解けていき、遂には恋人同士へと発展し、順風満帆な日々を送り始めます。

バーレスクの危機

しかし、バーレスクの借金が減る目途は中々立ちません。もはやバーレスクを手放すしか方法はないとなったとき、不動産業を営む常連客のマーカスがバーレスクを買い取りたいとテスに訴えてきました。しかし、バーレスクを何よりも大切にしているテスは中々手放す気になれずにいたのでした。一方、順調な交際をしていたはずのアリとジャックにも暗雲が立ち込め始めます。ジャックが婚約者に婚約解消を告げていなかったことが分かったのです。怒ったアリはジャックの家を飛び出し、以前から好意を示してくれていたマーカスの家に行きます。そこでアリは、マーカスがバーレスクの跡地に高層ビルを建てようとしていることを知ってしまいます。バーレスクなんかよりももっと大きな舞台に立たせてやるというマーカスを振り、アリはバーレスクへと戻りました。

空中権

アリは、以前マーカスに口説かれた際に不動産の薀蓄を聞いたことを思い出し、近々完成予定のバーレスクの向かいにある高層マンションのオーナーのもとにテスを連れて会いに行きます。二人はオーナーにバーレスクの土地の「空中権」を売り出したのです。空中権がなければマーカスは高層ビルを建てられず、高所からの絶景を宣伝文句にしているマンションのオーナーとしても、目の前に高層ビルが建てられてはマンションの価値が下がってしまうため、オーナーは二人の申し出を喜び、高額で空中権を購入したのでした。このお金で借金を完済したテス。バーレスクは救われ、ジャックとも復縁したアリは再びバーレスクの舞台で歌を披露するのでした。

キャスト

  • アリ・・・クリスティーナ・アギレラ
  • テス・・・シェール
  • ニッキ・・・クリスティン・ベル
  • ジャック・・・キャム・ギガンデット
  • ショーン・・・スタンリー・トゥッチ
  • マーカス・・・エリック・デイン
  • アレクシス・・・アラン・カミング
  • ジョージア・・・ジュリアン・ハフ
  • ヴィンス・・・ピーター・ギャラガー
  • ナタリー・・・ディアナ・アグロン

スタッフ

  • 監督・・・スティーヴ・アンティン
  • 脚本・・・スティーヴ・アンティン
  • 製作・・・ドナルド・デ・ライン
  • 製作総指揮・・・ダナ・ベルカストロ、ステイシー・クレイマー、グレン・S・ゲイナー
  • 音楽・・・クリストフ・ベック
  • 撮影・・・ボジャン・バゼリ
  • 編集・・・ヴァージニア・カッツ
  • 製作会社・・・デ・ライン・ピクチャーズ

バーレスクってなに?

バーレスクとは、シェイクスピア等先行する文芸作品をパロディ化した茶番劇のことをいいました。転じて、一般的には性的な笑いのコントや、完全なヌードに至らない女性のお色気を強調した踊りを含めたショーのことを言います。映画でのバーレスクは、この踊りのショーに含まれます。バーレスクは、19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝時代に発展しました。ミュージックホールでのショーやヴォードヴィル、軽演劇のスタイルが主流でした。20世紀に入り、多くのコメディアンが映画に参入すると、バーレスクの世界も初期の無声映画になだれ込みます。マック・セネットの「ベイジング・ビューティー」などはその典型的な例です。アメリカでは1920年代に、ある劇場でコーラスガールのスリップの紐が切れてそれが反響を呼び、バーレスクショーが始まったと言われていますが、実際のところはいつどこで始まったのかわかって居ません。1933年のシカゴ万博では客寄せのためにバーレスクダンサーが搭乗しました。その立役者はサリー・ランドで、彼女のファンダンス(大きなオーストリッチの扇をつかったダンス)はその後映画でも見ることが出来ます。映画「バーレスク」の中でもこれと似たシーンがありましたね。そして、今ではミュージカルにもなったジプシーローズリーが登場し、徐々にバーレスクがブームになって行きます。世界にただ一つのバーレスク博物館「エキゾチックワールドバーレスク博物館」では、ダンサーやコメディアン、ヴォードヴィリアンの資料を見る事ができます。日本でも、戦前の東京・浅草において軽演劇、浅草オペラなどが発展し、榎本健一らが無声映画に参入するとともに、バーレスクは日本映画に導入されました。戦後バーレスクは、おもにヌードダンサーのことを示すようになり、初期のストリップ劇場で見ることができました。その後、バーレスクの特徴であるチラリズムが衰退し、バーレスクはグランドキャバレー、ナイトクラブでのショー、日劇ミュージックホールのダンサーに受け継がれるようになります。しかし再びチラリズムよりもダイレクトな性表現が好まれ、ミュージックホールの閉館、グランドキャバレー衰退により、バーレスクショーも衰退していきます。現在バーレスクは「ニューバーレスク」として再びアメリカから火が付き、ディタ・フォン・ティースがそのアイコンとして知られています。日本人バーレスクダンサーとしては、エロチカ・バンブーが、またグループとしては紫ベビードールがバーレスクのトップダンサーとして活躍中です。

豪華絢爛!ショービジネスの世界

「バーレスク」というのは、ストリップまではいかないけれど、ちょっとセクシーな踊りと歌を見せてくれるショーのことを言うのだそうです。この映画でもそういったショーの場面が多く見られます。と、いいますか、ほとんどショーの場面がメインと言っても過言ではありません。ストーリーは極々単純なサクセスストーリーで、田舎から都会に夢を持って出てきた女の子が、失敗したりバカにされたりしながらもその夢を掴んでいくというものです。ありふれた、使い古されたテーマですし、見飽きたと思う方も多いと思いますが、この映画はそんな考えを払拭してくれる魅力があります。一つは、主演がクリスティーナ・アギレラだという点です。彼女の演歌のようなコブシを効かせたパワフルな歌声は、誰にも真似できない迫力があります。意外に思われるかもしれませんが、彼女はこれが映画初出演だったそうです。演技はそれほどまでに上手くはないのですが、やはり歌とダンスは一流です。彼女が唄い、踊るたびに鳥肌が立ちました。そして、もう一つの魅力は、オスカー女優にしてグラミー賞受賞者でもあるシェールが出演していること。彼女のエキゾチックな雰囲気は、映画の大きなスパイスとなっています。女優としても歌手としても成功している彼女だからこそ、バーレスクの雰囲気が出せたのだと思いますし、彼女が劇中で披露する2曲はアギレラのそれとは全く違った強さや儚さや美しさを感じる歌声でした。たった2曲しかないのが残念でしたが、それでも存在感は映画の中で群を抜いていました。また、脇を固める俳優陣も豪華でした。ゲイの衣装係には、数々の映画に脇役として出演し、存在感のある演技を見せているスタンリー・トゥッチが出演しています。酒癖の悪い問題児・ニッキは、あの大ヒット映画「アナと雪の女王」でアナ役を演じています。これまたゲイの踊り子・アレクシスは、今年話題となった映画「チョコレート・ドーナツ」で主演したアラン・カミングでした。このように実力派の俳優たちが、その演技と歌と踊りで観客を釘づけにしてくれます。2時間があっという間に過ぎ、映画ではなく生のショーを見ているような気持ちになれました。映画館の大きなスクリーンで大音響で見るのが一番いいと思いますが、お家のテレビでも十分楽しめると思います。嫌なことを忘れたいとき、スカッとしたいときにお勧めの映画です。

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